私は、数年前に父を亡くし、実際に遺産相続を経験した者です。当時は何も分からず、突然の手続きや兄弟間の意見の違いに戸惑うばかりでした。特に「遺留分」については、知らなければ損をしてしまう可能性がある重要な権利だと痛感しました。
今回は、同じように悩んでいる方のために、私の経験を交えながら「遺留分請求の準備と調停までの流れ」をわかりやすくまとめました。少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。
はじめに

相続トラブルの背景と遺留分請求の重要性
「うちは揉めるような財産もないし大丈夫」と思っていませんか?実は、財産の多少に関わらず、相続をめぐるトラブルはどの家庭にも起こりうる問題なんです。うちもそうでした…。
とくに親が遺言を残していた場合、「兄にだけ多く遺していた」「妹には何も残されていなかった」など、相続人間で不公平感が生まれることがあります。こうした不公平を正す手段のひとつが「遺留分請求」です。
遺留分とは、法律で守られている“最低限の取り分”のこと。たとえ遺言で排除されていても、自分の権利として請求できる制度なんです。たとえば、父の遺言で長男に全財産が渡ると書かれていても、次男であるあなたが遺留分を請求することで、一定の金額や財産を受け取れる可能性があります。
私自身、最初は「遺言に書かれていることがすべて」と思っていましたが、実はそうじゃなかったんですね。
家庭裁判所に行く前の「準備」がカギとなる理由
遺留分請求は、ただ「不満がある」と伝えるだけでは通りません。ちゃんとした手順や準備をしないと、家庭裁判所での調停でも不利になってしまうことがあるんです。
たとえば、亡くなった方の財産内容をしっかり把握していないと、「いくら請求すればよいのか」「自分の取り分はいくらなのか」が分からず、話し合いも進みません。
うちの場合も、財産がどこにどれだけあるのか把握するのに本当に苦労しました…。預金通帳や不動産の名義、さらには生前贈与されたお金など、いろんな情報を集める必要があったんです。
また、調停では調停委員という第三者が話を取りまとめてくれますが、こちらの主張を分かりやすく伝えるためには、事前に「何を求めるのか」「なぜそれが正当なのか」を整理しておくことがとても大切です。
実際に、「準備不足で相手の主張に押し切られてしまった」「書類の不備で申立てがやり直しになった」なんてケースも少なくありません。だからこそ、調停に進む前の“準備段階”こそが、一番重要なステップだと私は実感しています。
遺留分請求で調停へ進む際に、失敗しないための事前準備と当日のポイントを解説します。
この記事でわかること
- 家庭裁判所の調停に行く前に準備すべきことは?
- 書類・証拠・心構えをまとめて確認したい
- 調停でのNG対応やスムーズな進め方も知っておきたい
1.遺留分侵害額請求の基本を押さえる
【前提】調停とは?なぜ必要なの?
調停(ちょうてい)とは、家庭裁判所で行われる当事者同士の話し合いの場です。
中立の調停委員が仲介し、法的拘束力を持つ合意を目指します。
- 遺留分請求で相手と合意できないときに利用される
- 原則「家庭裁判所」に申し立てる
- 調停が不成立になると「審判」または「訴訟」へ移行
遺留分とは?誰にどれだけの権利があるのか
遺留分とは、相続人が最低限受け取ることが保証されている取り分のことです。これは、遺言などで特定の人にすべての財産を譲ると書かれていても、他の法定相続人がまったく相続できないという不公平を防ぐために設けられた制度です。
たとえば、父が亡くなり、母と子ども2人が相続人だった場合、遺産総額が1,000万円だとすると、母が法定相続分の1/2(500万円)、子どもは1人あたり1/4(250万円)ずつとなります。このとき、遺留分はそれぞれの法定相続分の1/2となるため、母は250万円、子どもは各125万円が遺留分として保障されている金額です。
つまり、たとえ父の遺言で「全財産を長男に譲る」と書かれていたとしても、次男には最低125万円の請求権があるということになります。
請求できる期間と手続きの期限
遺留分の請求には時効があります。相続が発生したことと、自分に不利な遺言や贈与の内容を知った日から「1年以内」に請求しなければなりません。また、知らなかったとしても、相続開始から「10年」を過ぎると請求できなくなってしまいます。
たとえば、父が亡くなった後、1年経ってから初めて遺言書の存在を知った場合でも、そこから1年以内であれば請求が可能です。しかし、相続が開始してから10年を超えてしまうと、たとえ不当な内容だったとしても、請求はできません。
このように、請求できる期間が限られているため、遺言書の内容や財産の分配に納得がいかない場合は、できるだけ早めに専門家や法務局に相談することが大切です。
内容証明郵便での通知とその効果
遺留分の請求を行う際には、「内容証明郵便」で相手方に通知するのが一般的です。内容証明郵便とは、誰が・いつ・どんな内容で送ったのかを日本郵便が証明してくれる郵送方法で、後々「そんな請求は受けていない」と言われないようにするための証拠になります。
実際の文面では、「私は○○年○月に開始した○○の相続について、遺留分を有しています。つきましては、遺留分に相当する金額○○円を請求いたします」といった形で、権利を主張することが多いです。
この通知が届いたことにより、相手方も正式な手続きが始まったことを認識し、調停や話し合いの場に応じる姿勢を見せるケースもあります。特に、相続人同士での関係が悪化している場合には、感情的な口頭でのやりとりを避け、書面で冷静に伝えることが効果的です。
家庭裁判所での遺留分侵害額請求調停申立書の書き方と、不備で却下されないための重要なポイント(実務のコツ)
1. 申立書に必要な基本構成
項目 | 内容 | コツ |
---|---|---|
裁判所名 | 「○○家庭裁判所 御中」 | 被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所 |
申立人欄 | 氏名・住所・連絡先 | 調停に出席する本人の正確な情報を記載 |
相手方欄 | 請求相手(受贈者や遺言で財産を得た人) | 複数いれば全員を記載(漏れ注意) |
被相続人情報 | 氏名・生年月日・死亡日・死亡時の本籍と住所 | 戸籍謄本の情報と一致させる |
請求内容 | 「遺留分侵害額の支払いを求める」など | 簡潔・明確に請求趣旨を書く |
事情説明(事案の概要) | 遺留分が侵害されている理由、経緯など | 感情的ではなく、時系列+証拠に基づいて記述 |
添付資料一覧 | 戸籍、遺言書、財産目録など | 漏れがないようにリストアップ |
2. よくある不備と却下を避けるコツ
不備の内容 | よくあるミス | 回避策 |
---|---|---|
裁判所の選択ミス | 被相続人の住所地と無関係な裁判所に出す | 管轄を家庭裁判所HPで確認 |
相手方の記載漏れ | 財産を受け取った人を記載し忘れる | 贈与・遺贈・法定相続人すべて確認 |
書類不備 | 戸籍謄本や遺言書の写しが添付されていない | 提出チェックリストを活用 |
表現の曖昧さ | 「納得いかない」「もめている」など抽象的記述 | 「いつ、何があった、どの財産で」明確に |
財産目録の欠如 | どの財産に対する遺留分か明示できていない | 計算根拠(不動産評価書・預貯金の写し)も添付推奨 |
📄 3. 書式テンプレート概要(記入例付き)
Wordテンプレート項目例:
令和○年○月○日
○○家庭裁判所 御中
【申立人】
氏名:山田花子
住所:〒000-0000 東京都○○区○○町○-○-○
電話番号:090-XXXX-XXXX
【相手方】
氏名:山田太郎(長男)
住所:〒000-0000 東京都△△区△△町△-△-△
【被相続人】
氏名:山田一郎
生年月日:昭和○年○月○日
死亡日:令和○年○月○日
死亡時の住所:東京都○○区○○町○丁目○番○号
【申立の趣旨】
申立人は、相手方に対し、被相続人の遺産に関して遺留分侵害額請求を求め、調停による解決を望みます。
【事情の説明】
被相続人は令和○年○月○日に死亡し、遺言により全財産を相手方に相続させる旨が記されていました。申立人は法定相続人であるにもかかわらず、遺留分に相当する財産を受け取っておらず、内容証明にて請求したが、協議が不調であったため本調停を申し立てます。
【添付資料】
・被相続人の戸籍(出生~死亡まで)
・申立人の戸籍
・遺言書写し
・財産目録および評価資料(固定資産税評価証明書など)
以下より、遺留分侵害額請求調停申立書のケース別テンプレート(Word形式)をダウンロードできます。
4. 実務のコツまとめ
- 事前に家庭裁判所へ相談日を予約(窓口で書類確認してもらえることも)
- 郵送提出時は写しを残し、特定記録郵便以上で送付
- 弁護士不要でもOKだが、書類の正確性が問われる
- 遺留分の計算根拠が曖昧だと調停が長引く → エクセル等で明確に
2.家庭裁判所での調停に備えるための準備
必要書類と申立書の書き方・入手先
調停に進むには、まず必要な書類を準備しなければなりません。中心となるのは「調停申立書」で、これは家庭裁判所に提出する正式な書類です。申立書には、申立人と相手方の氏名・住所、相続の発生日、請求内容(遺留分の金額など)、請求の理由などを具体的に記載します。
申立書の用紙は家庭裁判所の窓口やホームページから入手可能で、記入例も公開されています。また、戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの連続したもの)や財産目録、遺言書の写しなども添付資料として必要になる場合があります。
たとえば、兄にだけ多く財産が渡っていることに納得がいかない妹が、調停で遺留分を請求する際には、「兄が取得した財産の内訳」「自分の遺留分はいくらになるのか」などを証明するための資料が求められます。
相手方との関係を整理して主張を明確にする
調停はあくまで話し合いの場です。そのため、感情的にならず、主張をロジカルに伝えることが大切です。まずは、自分と相手方(たとえば兄や姉)との関係性を振り返り、「なぜ納得がいかないのか」「どの財産の分配に問題があるのか」を明確にしておきましょう。
具体的には、「父の生前、兄はすでに数百万円の援助を受けていた」「遺言書には触れられていない不動産がある」など、事実に基づいた主張を用意しておくことが大切です。記録や証拠がある場合は、それも一緒に整理しておくと、調停委員にも状況が伝わりやすくなります。
また、主張の根拠となる資料や考えをノートやメモにまとめておくと、当日の発言に自信が持てるでしょう。
弁護士なしで対応する際の注意点と支援機関
遺留分請求の調停は、弁護士をつけずに自分だけで対応することも可能です。ただし、法律的な主張や証拠の整理、書類の作成に不安がある場合は、事前に公的な支援機関を活用することをおすすめします。
たとえば、「法テラス(日本司法支援センター)」では、収入や資産に応じて無料の法律相談や弁護士費用の立替え支援を受けることができます。地域によっては、市区町村の法律相談窓口や、弁護士会主催の無料相談会も利用できます。
弁護士なしで対応する場合に多い失敗例として、「主張が感情的になりすぎて調停がこじれてしまった」「必要書類の不備で申立てが却下された」などがあります。そうした事態を避けるためにも、事前に調べ、相談し、万全の準備を整えておくことが成功への近道です。
調停前こそが勝負どころ
調停に行く前に準備すべきポイント:- 必要書類を揃える:戸籍・遺言書・財産目録・申立書など
- 請求額の根拠を明確にする:遺留分計算書や評価額の整理、証拠などを事前に揃える
- 相手の対応を想定する:感情的・対立型か、協議可能かを想定する
- 主張と譲歩ラインを整理:「ここまでは譲れる」基準を設定、遺留分額・主張根拠・譲歩ラインの明確化
- 冷静な姿勢:調停委員に信頼される態度が大切
- 専門家への相談を検討:弁護士相談で安心と説得力をプラス
🧾【チェックリスト】調停に行く前にすべき5つの準備
① 必要書類を揃える
書類名 | 用途・ポイント |
---|---|
被相続人の戸籍謄本 | 死亡の事実と相続関係の確認 |
自分の戸籍 | 相続人であることを証明 |
遺言書の写し(ある場合) | 内容の確認と遺留分侵害の有無 |
財産目録 | 遺産の種類・評価額の整理(不動産・預金・株など) |
内容証明郵便の写し | 請求した事実の証拠として |
遺留分計算表 | 適正な請求額かどうかを説明しやすくなる |
家庭裁判所用の申立書 | 各家庭裁判所指定の様式に記入(Word版テンプレもあり) |
② 請求額の根拠を整理しておく
- 自分の法定相続分・遺留分割合を再確認
- 財産目録に基づき、「遺留分の金額」を数値で説明できるようにする
- 相手が取得した財産の明細(不動産評価額・贈与額など)も重要
💡 Excelテンプレートなどで計算根拠を準備しておくと安心!
③ 相手の状況・性格を想定しておく
- 感情的になりやすい相手か?
- 過去にトラブルの履歴があるか?
- 弁護士を立てているか?自分も検討を
⚠️ 「冷静な姿勢」で臨むことが重要です。
④ 自分の主張と譲歩ラインを整理する
- 何を守りたいのか?(最低限の金額?家族との関係?)
- 「ここまでは譲れる」というポイントを考えておく
💡「戦わない戦術」も選択肢の一つです。
⑤ 専門家(弁護士)への相談も検討
- 法的根拠の裏付けを確認してもらう
- 書類作成を代行してもらえる
- 調停に同席(代理人)として出てもらえる
3.調停の進み方と当日の対応ポイント

初回調停の流れと進行役(調停委員)の役割
調停が始まると、家庭裁判所に出向いて「第1回調停」に出席することになります。当日は、裁判所の調停室に案内され、申立人と相手方は原則として別々の部屋に通されます。調停委員という中立の立場の専門家(法律と民間の両方から1〜2名ずつ)が、それぞれの言い分を交互に聞いて、話し合いの橋渡しをしてくれます。
調停委員は「感情」ではなく「事実と根拠」に注目します。たとえば、「兄だけが家を相続したのが不満」と伝えるよりも、「兄が取得した不動産の評価額が1,200万円で、自分の遺留分を侵害している可能性がある」と具体的な数字を示す方が効果的です。
また、初回で結論が出ることは稀で、通常は2〜3回程度の調停を経て、双方の意見をすり合わせていく流れになります。
合意形成に向けた心構えと主張の伝え方
調停は、裁判と違って“勝ち負け”を決める場ではなく、合意を目指す場です。そのため、感情的にならず、冷静に自分の考えを伝える姿勢が大切です。ポイントは「相手を否定しすぎないこと」「自分の希望を具体的に伝えること」です。
たとえば、「兄が全部持っていったのはずるい」と言うよりも、「私は法定相続人としての権利である遺留分だけを求めています」と伝えると、調停委員にも誠実な印象を与えやすくなります。
また、希望する金額の根拠(財産の評価、法定相続割合、すでに取得済みの財産など)を整理しておくことで、スムーズな合意形成に近づきます。必要があれば、資料やメモを見ながら話すことも可能ですので、準備した内容は忘れずに持参しましょう。
調停が不成立だった場合の次のステップ(審判・訴訟)
もし調停で話し合いがまとまらなかった場合、家庭裁判所が職権で判断を下す「審判」に移行するか、または地方裁判所での「訴訟(裁判)」に進むことになります。
審判では、裁判官が一方的に決定を下すため、自分の希望がすべて通るとは限りません。また、訴訟に進むと時間も費用もさらにかかるため、多くの人はできるだけ調停で解決したいと考えます。
たとえば、兄と次男の間で調停が決裂し、兄が全く譲歩しない場合には、次男が裁判を起こし、証拠を提出して裁判所の判断を仰ぐ形になります。裁判では法律上の主張や書証(書類による証拠)が重視されるため、より専門的な知識や弁護士のサポートが必要になる場面も出てきます。
そのため、調停段階で誠意ある対応と根拠ある主張を行うことが、最終的な解決への近道ともいえるでしょう。
🏛 家庭裁判所での対応ポイント
- 服装と態度:清潔感のある服装と冷静な姿勢
- 事実ベースで話す:「証拠に基づく主張」が重要
- 感情に流されすぎない:調停委員に誠実な印象を与える
- 信頼関係を築く:調停委員が味方になる可能性も
✅ 1. 服装と態度は「誠実さ」が基本
- スーツまたは清潔な服装がベター
- 大声・感情的な発言は避ける
- 調停委員にも礼儀を忘れずに
✅ 2. 質問には簡潔に、事実ベースで答える
- 「~と思います」よりも「○○という証拠があります」
- 曖昧な発言は誤解を生むため、書類をベースに説明
✅ 3. 感情論だけに偏らないようにする
- 「私が介護したのに…」も正当な主張ですが、→ 金銭的貢献・証拠(領収書・診療記録など)があると強力
✅ 4. 調停委員との信頼関係を重視
- 審判や裁判になったときも、調停記録が判断材料に
- 「誠実な姿勢」が調停委員に好印象を与えます
⚠️ よくあるNG対応(避けるべきこと)
- 「相手が憎いからとにかく争いたい」→目的を見失いがち
- 準備不足で調停に臨む「何も準備せずに出席」→主張が通らず不利に
- 怒鳴る・責めるなど感情的な発言「→調停が不利になる可能性あり
準備すべきこと | 内容 |
---|---|
書類 | 戸籍・目録・遺言・申立書など |
主張の整理 | 金額・根拠・譲歩ライン |
相手との関係分析 | 感情的リスクの管理 |
態度と服装 | 誠実・冷静・事実ベースの姿勢 |
専門家の活用 | 弁護士相談で安心をプラス |
まとめ
遺留分請求は、相続人としての大切な権利を守るための手段です。しかし、その権利をきちんと行使するためには、感情だけで動くのではなく、法律的な根拠と冷静な準備が欠かせません。
まずは、遺留分とは何か、どれだけ請求できるのかといった基礎知識を身につけ、期限内に内容証明で請求意思を伝えることが重要です。そのうえで、調停に進む場合は、書類の不備がないよう注意し、主張の根拠を整理し、相手方との関係性も見つめ直す必要があります。
調停では中立な立場の調停委員が話し合いをサポートしてくれますが、自分の考えをしっかり伝えるための準備は自分でしておかなければなりません。調停で話し合いがまとまらなかった場合には、審判や訴訟という選択肢もありますが、できれば調停の段階で誠実に向き合い、合意に至るのが理想です。
相続をめぐる争いは、家族関係にも大きな影響を与えかねません。だからこそ、焦らず、確かな知識と準備で、一歩一歩進めていきましょう。

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