「病院ではなく、自宅で家族に囲まれて最期を迎えたい」—そんな想いを持つ人が増えています。私自身も高齢の親を持つ一人として、いざという時にどうすればよいのかと悩んだ経験があります。
この記事では、在宅看取りの基本から、家族が準備すべきこと、公的制度の活用法まで、体験談を交えながらわかりやすく解説していきます。
はじめに
自宅で最期を迎えるという選択肢が見直されている背景
近年、「病院ではなく、自宅で家族に見守られながら最期を迎えたい」と希望する高齢者が増えてきています。特にコロナ禍以降、病院での面会制限を経験した人たちの間で、「最期の時間は、慣れ親しんだ自宅で過ごしたい」という声が強くなりました。
また、医療技術の進歩とともに、訪問診療や訪問看護といった在宅医療の体制が整いつつあり、自宅でも十分なケアを受けられる環境が広がっています。かつては「最期は病院で」というのが当たり前の時代でしたが、今では「本人の意志や家族の想いを尊重する」という考え方が主流になりつつあります。
在宅看取りに向けて必要な心構えと準備の重要性
在宅で看取るには、医療・介護の準備だけでなく、家族の気持ちの整理や生活スタイルの見直しも必要です。たとえば、日中ひとりで過ごしていた高齢の親を看取るためには、誰が介護を担うのか、どのようなサポートを受けられるのかといった具体的な話し合いが不可欠です。
また、死に向き合うという経験は、そう何度もあることではありません。不安や戸惑いを抱えるのは当然です。そのためにも、事前に情報を集めたり、在宅看取りを経験した人の話を聞いたりして、少しずつ心の準備をしておくことが大切です。
たとえば、ある60代の女性は、認知症の父親を自宅で看取ると決め、訪問診療の先生と連携しながら、最期の時間を一緒に過ごしました。「家で過ごせてよかった、という父の表情が忘れられません」と語っています。在宅看取りは簡単ではありませんが、愛情と準備があれば、かけがえのない時間をつくることができます。
1.在宅看取りとは何か?

病院での最期との違い
病院での看取りでは、医師や看護師が常にそばにいてくれる安心感がありますが、一方で、家族との面会に制限があることや、本人が望まない延命治療が行われることもあります。機械の音が響く病室で、慌ただしく時間が過ぎていく中で最期の時を迎えることも少なくありません。
それに対して在宅看取りは、本人の好きな音楽を流したり、ペットが寄り添ったりと、その人らしい環境で過ごすことができます。家族が交代で付き添い、日常の延長線上で穏やかな時間を持てるのが大きな違いです。もちろん、医療体制の整備は必要ですが、それ以上に「人としての最期」を大切にできる場所だと言えます。
在宅看取りのメリットとデメリット
在宅看取りのメリットとしてまず挙げられるのは、「自分の家で過ごせる安心感」です。入院による環境の変化は高齢者にとって大きなストレスになりますが、自宅であれば慣れた部屋で、家族に囲まれて最期を迎えられます。費用面でも、入院費用や交通費などを抑えることができる場合があります。
一方で、デメリットもあります。たとえば、夜間や急変時の対応に家族が不安を感じるケースや、介護の負担が偏ってしまうこともあるでしょう。医療機関と連携が取れていないと、対応が遅れることもあります。
実際に在宅で看取ったある男性は、「父の希望をかなえられてよかった。でも、途中で何度も『これで大丈夫なのか』と不安になった」と振り返ります。このように、メリットを活かすためには事前の準備と支え合いが不可欠です。
実際に在宅で看取る人が増えている理由
近年、在宅看取りの件数は少しずつ増加しています。背景には、高齢化の進行により病院のベッド数が限られてきたことや、家族の介護参加への意識の高まり、そして行政や医療機関の在宅支援体制の整備があります。
また、メディアや終活講座などを通じて、「家で看取る」という選択肢が広く知られるようになったことも大きな要因です。ある市町村では、地域の診療所と連携し、24時間対応の訪問医療体制を整備したことで、在宅看取りの希望者が大幅に増えたという事例もあります。
こうした社会の変化により、これまで「難しい」「無理かもしれない」と思われていた在宅看取りが、少しずつ現実的な選択肢として浸透してきています。
在宅看取りとは何か?
病院での最期との違い
病院では医療スタッフの支援が充実している一方で、面会制限や延命治療が行われることもあります。対して、在宅看取りは、本人の望む環境で穏やかに過ごすことができる選択肢です。
メリットとデメリット
メリット:慣れ親しんだ場所で過ごせる安心感、家族との時間が確保できること。 デメリット:夜間対応や急変時の不安、家族への負担。
増加する在宅看取り
訪問診療や介護支援体制の整備により、在宅看取りを選ぶ人が少しずつ増えています。
2.在宅看取りの準備と流れ

医療・介護の体制づくり(訪問診療・訪問看護)
在宅看取りを実現するためには、まず医療と介護の連携体制を整えることが重要です。
具体的には、主治医や訪問診療の医師に相談し、定期的に自宅へ来てもらえる体制を確保することから始まります。また、日常の体調管理や清拭・排泄などを支える訪問看護師の存在も大きな支えになります。
たとえば、90代の祖母を在宅で看取った家族は、週2回の訪問看護と、急変時には医師が夜間でも対応してくれる体制を整えていました。日々の記録を共有し、必要に応じて点滴や緩和ケアも受けられるよう準備していたことで、最期の時間を安心して過ごすことができたといいます。
家族ができることと役割分担
在宅で看取る際には、家族のサポートが大きな力になります。
ただし、すべてを一人で抱える必要はありません。複数の家族が関われる場合は、誰がどの時間帯を担当するか、食事や薬の管理は誰が見るかなど、あらかじめ役割を分けておくことで、無理なく見守ることができます。
たとえば、ある家庭では、娘が平日日中の介護を担当し、夜間は同居する息子が見守り、休日は孫が買い出しや掃除をサポートしていました。「家族みんなで支えることで、祖父の表情も穏やかだった」と語っています。
また、仕事や距離の関係で毎日来られない家族も、電話で声をかけたり、手紙を送ったりすることも立派な支えになります。
必要な手続きと備えておくべきもの
在宅看取りを円滑に進めるためには、事前に必要な書類や備品をそろえておくことも大切です。
たとえば、かかりつけ医と「在宅で看取りを希望する」旨を共有し、必要に応じて事前に「在宅看取り指示書(終末期の治療方針に関する書類)」を交わしておくことが勧められます。
備えておきたいものには、体温計や血圧計、介護用ベッド、吸引器、清拭シート、紙おむつ、口腔ケア用品などがあり、地域の介護レンタル事業者を通じて手配することができます。
また、看取り後の手続きや連絡先(葬儀社や市役所、主治医など)をあらかじめリスト化しておくと、万が一のときにも慌てずに行動できます。準備をしておくことで、残された時間を穏やかに過ごすことができます。
準備と流れ
医療と介護の体制づくり
主治医、訪問看護、訪問介護の連携が必要です。
家族の役割分担
交代制や電話での見守り、買い物や掃除の担当などで無理のない介護を。
事前に備えておくもの
- 医療器具・介護用品
- 連絡先リスト
- 事前指示書(延命治療を希望しないなど)
3.在宅看取りを支える制度とサポート

利用できる介護保険サービス
在宅看取りを支える大きな柱のひとつが、介護保険制度です。要介護認定を受けていれば、訪問介護(ヘルパー)、訪問看護、福祉用具のレンタル、デイサービスなど、さまざまなサービスを自宅で受けることができます。
たとえば、80代の母親を在宅で看取った娘さんは、訪問介護で毎朝の着替えと清拭、訪問看護で週に2回の健康チェックを受けることで、家族の負担を大幅に軽減できたと言います。介護保険は1〜2割の自己負担で利用できることが多く、経済的にも助かる制度です。
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すれば、本人の状態や家族の状況に応じたサービス内容を組み立ててくれます。はじめての方は、まずは地域の窓口に連絡を取ることから始めてみましょう。
医療費や葬儀に関する公的支援制度
在宅での看取りには、医療費や葬儀費用も気になるところです。
高額療養費制度を使えば、1ヶ月の医療費の自己負担額には上限が設けられており、後日払い戻しを受けることができます。また、一定の条件を満たせば、葬儀費の一部を国民健康保険や後期高齢者医療制度から支給される「葬祭費」として受け取ることができます。
たとえば、後期高齢者医療に加入していた方の場合、市区町村から5万円程度の葬祭費が支給されるケースがあります。必要書類や申請先などは自治体によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
生活に困っている家庭には、生活保護の医療扶助や福祉制度が活用できる場合もあります。決して「お金がないから看取りはできない」とあきらめず、支援制度の活用を検討しましょう。
看取り後の対応と地域の相談窓口
在宅で看取った後は、死亡確認や死亡診断書の発行、葬儀の手配、市役所への届け出など、短時間でやるべきことがいくつもあります。
こうした手続きを円滑に進めるためにも、事前に地域の相談窓口や葬儀社と連携を取っておくことが大切です。
たとえば、ある地域では、訪問診療の医師が亡くなった直後に自宅へ来て、家族と一緒に死亡確認を行い、その場で死亡診断書を作成する体制が整っています。
さらに、地域の包括支援センターでは、看取り後の手続き一覧を配布したり、必要に応じて行政書士や葬儀社を紹介してくれるサービスもあります。
また、亡くなった後の心の整理や喪失感に寄り添ってくれる「グリーフケア」も、最近では地域やNPO団体を中心に提供されるようになっています。家族の悲しみに寄り添う支援も、在宅看取りの大切な一部といえるでしょう。
公的サポートと費用
利用できる制度
- 介護保険(訪問介護、訪問看護など)
- 高額療養費制度(自己負担の上限あり)
- 葬祭費助成(後期高齢者:5万円程度など)
- 自治体の看取り支援(例:岩国市「在宅医療・介護連携支援」)
モデルケース:月12,000円負担の例
訪問診療・訪問看護・介護レンタル費などを合わせても、高額療養費制度を使えば月12,000円程度で済んだ実例があります。
自治体別「看取り支援助成制度」一覧
自治体 | 制度名 | 支援内容 | 補助額・対象 |
---|---|---|---|
越谷市(埼玉県) | 若年がん患者在宅ターミナルケア支援事業 | 在宅療養にかかるサービス(訪問介護・看護・福祉用具)を一部助成 | 月最大72,000円(利用料の9割、上限あり) |
越谷市 | 在宅介護者福祉手当 | 要介護4・5の高齢者を自宅でケアする家族に支給 | 月額5,000円 × 年3回 |
埼玉県 | 複数人訪問費用補助 | 公的訪問看護を複数人体制で行う際に補助 | 要件整えば申請可能 |
東京都(区市町村) | 若年がん患者在宅療養支援 | 若年がん患者の在宅療養費用を助成 | 区により支援内容・窓口異なる |
福岡市 | 在宅医療・看取りパンフ提供 | 費用や制度に関する冊子を無料配布 | PDFや窓口で入手可 |
✔ 支援制度活用のポイント
- 医療・介護サービス費用の軽減
在宅療養で利用する訪問介護・看護、福祉用具レンタルに使える制度があります。 - 在宅ケアに携わる家族への支援
介護者自身への手当(福祉手当など)が利用でき、精神的・金銭的な支えとなります。 - 地域によって内容が異なる
同じ市でも対象世代や年齢制限、補助額が違うため、詳細は自治体HPや包括センターで確認を。
▶ 次のステップ
- 📌 自治体HPを「在宅療養」「看取り支援」で検索
- 📌 地域包括支援センターに相談して、最新情報を確認
- 📌 ケアマネジャーと相談して申請条件や手続き方法を把握
月12,000円負担モデルケース集(在宅看取り向け)
モデル①:末期がん・独居で在宅看取りを望むケース
- 訪問診療+訪問看護+処方薬を利用
- 健康保険の負担限度(外来扱い)が12,000円/月
- 末期がん等の状況で一つの医療機関につき限度額が適用されます
計算例:
- 月の自己負担:12,000円(診療+看護+薬剤費)
- 月の介護保険限度内:介護サービス含め +35,000円(例)
- 合計 ≈ 47,000円/月(医療+介護)
モデル②:一般高齢者の定期訪問診療+週1訪問看護
- 東京都練馬区の例より:
- 月2回訪問診療、週1回訪問看護、月1回薬剤管理訪問
- 1割負担の場合:約11,000円/月
- 高額療養費を適用すれば、1〜3割負担込みで月14,000〜57,600円が上限に対応
モデル③:定期訪問診療2回+緊急往診+医学管理料
- 医療保険1割負担の試算に基づくモデル(自治体例)
例:
- 訪問診療:888円 ×2 = 1,776円
- 医学管理料:4,100円
- 往診料など加算:845円
- 緊急往診等:必要に応じ追加
- 総計 ≈ 7,286円/月
※3割負担の場合:21,528円程度
💡 メリットと留意点
- 医療費が12,000円程度に収まる安心感が得やすい(高額療養費制度利用)
- 症状によって看護・処置回数が増えると、負担額が増える点に注意
- 医療措置が少なめの静養期にはモデル②・③が適用されやすい
✅ 活用のすすめ
- 「毎月12,000円程度で在宅医療を続けられる」ことは、家計の見通しにつながりやすくなります。
- 高額療養費制度との併用を前提に費用計画を立てると安心です。
- 在宅診療を希望する場合は、具体的に自己負担額の目安を医師やクリニックに確認しておくことが大切です。
多数回該当による負担軽減の早見表
もしものときの選択は?
延命治療を選択するかどうか――これは本当に難しい決断ですよね。私自身も高齢の親を持つ身として、「もしものときにどうするか」は何度も考えてきました。でも、いざ目の前にその場面がくると、冷静に判断するのはとても大変です。
延命治療を選んだ場合の現実
延命治療とは、たとえば人工呼吸器の装着や心臓マッサージ、点滴での栄養補給など、命をつなぐための医療行為です。もちろん命が少しでも長く保たれる可能性があります。でもその反面、「意識がないまま機械につながれているだけの時間」になってしまうこともあるんです。
たとえば、ある高齢の母親が倒れて救急搬送された際、娘さんが「延命してください」と即答したそうです。後になって、「あのとき母の意思を確認していなかった…」と深く後悔されたとのこと。結局、数日間人工呼吸器で命をつないだものの、意識が戻ることはありませんでした。
本人が望んでいたかどうか
延命治療を選ぶ背景には、「できる限りのことはしてあげたい」という家族の愛情があります。でも、それが本人の希望と一致しているかは別の問題なんですよね…。
もし本人が「延命はしなくていい」と思っていたとしたら、その思いをくんであげるのもまた愛情のかたちです。だからこそ、生きているうちに家族で話し合っておくことが本当に大切なんだと思います。
“最期の時間”をどう過ごすか
延命をせずに自然な最期を迎えるという選択をされた方の中には、「最後の数日を家で、家族でゆっくり過ごせた」「穏やかに息を引き取った」など、心に残る時間を持てたという声もたくさんあります。
反対に、延命治療でバタバタと病院の中で過ごし、最後の会話もできなかったことを悔やむ方もいます。
私たちはどうしても「生きてほしい」と願ってしまいます。でも、命の終わり方には人それぞれの望みがあるはず…。その人らしい最期を迎えるために、「延命をする・しない」の選択は、できるだけ元気なうちに、家族でじっくり話しておきたいですね。
必要なら、「事前指示書」(リビングウィル)という形で希望を残しておく方法もあります。医師やケアマネジャーに相談すれば、手続きも丁寧に教えてくれますよ。
事前指示書(リビング・ウィル)とは?
事前指示書(じぜんしじしょ)とは、将来自分の判断力がなくなったときに備えて、どのような医療を受けたいか、受けたくないかをあらかじめ書き残しておく文書のことです。英語では「リビング・ウィル(Living Will)」とも呼ばれています。
◆ 事前指示書でできること
たとえば次のような内容を記しておくことができます:
- 延命治療(人工呼吸器・心臓マッサージ・胃ろうなど)を希望するかどうか
- 意識がない状態が続いたときにどうしてほしいか
- 終末期にどこで過ごしたいか(病院、自宅、施設など)
- 苦痛を和らげる治療(緩和ケア)を重視してほしい など
◆ なぜ必要なの?
私たちがいつ病気や事故で「意思を伝えられない状態」になるかは、正直わかりません。そのときに、家族が「どうすればよいか」と悩んだり、後悔したりすることを少しでも減らすために、事前指示書はとても役に立ちます。
本人の希望が明確に記されていれば、家族も医療者もそれに従って行動しやすくなるんですね。
◆ 書式やルールはあるの?
日本では法的な義務や統一されたフォーマットはありません。つまり、メモ書きでも意思表示にはなります。
ただし、以下のようなポイントをおさえるとより確実です:
- 自筆で書く(またはワープロでも可。ただし署名・日付をつける)
- 誰に見せるのかを決めておく(家族・主治医・ケアマネジャーなど)
- 内容を定期的に見直す
- 公正証書として残す方法もある(確実性が高い)
◆ 事前指示書とあわせて考えたい「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」
最近は、「事前指示書+家族や医療者との話し合い(ACP)」をセットで考える動きも広がっています。
ACPとは、本人がどのような人生を望むかを、繰り返し話し合いながら共有していくプロセスのこと。
一枚の紙に書くだけでなく、会話で想いを伝えることがより大事なんですね。
◆ まとめ:事前指示書は“あなたらしさ”を守るツール
最期のときを自分らしく迎えるために、事前指示書はとても心強い味方です。
「まだ早いかも…」と思っていても、元気なうちに一度考えておくことで、いざというときに家族が迷わず、あなたの思いを大切にしてくれるはずです。
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事 前 指 示 書 (リビング・ウィル)
私は、以下のような状態になった場合、自分の意思で次のような医療方針を望みます。
■ 氏名:_____________
■ 生年月日:____年__月__日
【1】延命治療について(該当するものに✔)
☐ 延命治療を望む
☐ 延命治療は望まない(自然な死を希望)
☐ 状況に応じて家族や主治医に任せる
【2】回復の見込みがない状態になった場合の対応
☐ 人工呼吸器の使用は望まない
☐ 点滴や経管栄養(胃ろうなど)は望まない
☐ 苦痛を和らげる治療(緩和ケア)を優先してほしい
【3】終末期に過ごしたい場所(希望に✔)
☐ 自宅 ☐ 病院 ☐ 介護施設 ☐ その他( )
【4】その他の希望・メッセージ(自由記述)
例:家族に迷惑をかけたくない。最期は静かに自然に過ごしたい。など
→
【署名欄】
■ 本人署名:____________
■ 記入日:____年__月__日
■ 家族の確認署名(任意):____________
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使用のポイント
- 家族・主治医・ケアマネジャーと共有しておくことが大切です。
- 2〜3年ごとに見直し、更新日を書いておくとベターです。
- 必要に応じて公正証書化や、ACPノートに記録するのも有効です。
緊急時の対応と意思表示
救急車を呼ぶと「通常医療モード」へ移行する
突然の心停止や意識消失が起きた場合、慌てて119番してしまうのは当然の反応です。ただし、その時点で救急隊が来ると、原則として“救命のための搬送”になります。つまり…
- 救急車が来た時点で「在宅で看取る」選択は中断される
- 搬送先の病院で延命治療が行われる可能性が高まる
という流れになるのが現実です。
■ では、どうすれば「救急車を呼ばずに在宅で看取れる」のか?
ここがポイントです。以下のような準備があれば、救急車を呼ばずに、在宅で自然な最期を迎えることも可能になります。
✅ 事前に訪問診療医と契約しておく
- 「緊急時にはこの医師に連絡を」と明確にしておく
- 24時間対応の医療機関と連携しておく
✅ 家族が「看取り」を希望していることを周囲と共有
- ケアマネジャー・訪問看護・近所の人にも伝えておく
- 主治医と「看取り指示書」を交わしておくと安心です
✅ 倒れたときの対応マニュアルを家族で共有
- 意識がない=すぐに救急車、ではなく
→「主治医に電話」や「看護師に連絡」という流れもある - 必要なら「看取り対応型の救急要請メモ」を作成
■ こんなケースもあります(実例)
私の知人のお母さまも、末期がんで自宅療養中に呼吸が苦しくなったのですが、家族が訪問医に電話したところ、深夜にもかかわらずすぐに駆けつけてくれたそうです。そのまま入院せず、家で穏やかに看取ることができたと話してくれました。
■ まとめ:事前準備と「連絡先の明確化」がカギ
救急車を呼んでしまうと、望まない延命につながることもあります。
「いざという時どうするか?」を元気なうちに家族と話し合っておくことが、在宅看取りの成功の第一歩です。
緊急連絡フロー
- 主治医へ連絡(訪問診療)
- 訪問看護へ連絡
- 葬儀社・行政機関へ
親が「在宅で最期を迎えたい」と言ったとき、子どもたちに求められる覚悟とは?
1. ❝「命の終わり」と向き合う覚悟❞
多くの人にとって、親は「いつまでも元気でいてほしい存在」です。
だからこそ、「在宅で看取ってほしい」と言われたとき、まず必要なのは“死”をタブーにしない心構えです。
- 「死を日常として受け入れる」
- 「残された時間をどう過ごすかを意識する」
- 「最期まで尊厳を大切にする」
という思いを持つことが、何よりの支えになります。
2. ❝日常の変化を受け入れる覚悟❞
在宅看取りは、病院のように24時間医療スタッフがいるわけではありません。
家族が中心となって、日々のケアや見守りを行うことになります。
- 仕事の調整(時短・休職・リモートなど)
- 自分や家族の生活リズムの変化
- 心身の疲れに向き合う覚悟
誰か一人に負担が偏ると限界が来てしまうので、“無理をしすぎない体制づくり”と“助けを求める勇気”も必要です。
3. ❝医療・介護の知識を持つ覚悟❞
医師や看護師、ケアマネジャーなどの力を借りるとはいえ、ある程度の知識や判断力も求められます。
- 「いつ連絡すべきか」
- 「どの症状が“最期のサイン”なのか」
- 「緊急時の対応はどうするのか」
不安なことはどんどん質問していいんです!
「知らないことを恐れずに、知ろうとする姿勢」が、家族を守る力になります。
4. ❝後悔しない選択をする覚悟❞
延命治療をするか、しないか。
最期の瞬間、誰がそばにいるか。
判断を迫られる場面は何度もあります。
そのとき、親の思いを尊重しながら、自分自身の気持ちとも向き合って、「あのとき、ちゃんと向き合った」と思える選択ができれば、それが一番だと思います。
💬 最後に:完璧な看取りなんて、ありません
大切なのは、「できることをできる範囲で、心をこめてやる」こと。
後悔がまったくない看取りなんて、正直、ほとんどありません。
でも、「親の思いを叶えられたかもしれない」「あのとき寄り添えてよかった」と思える瞬間が、必ず残ります。
共有ツール
在宅看取り 希望カード(冷蔵庫貼付用)
A6サイズ相当のコンパクトなレイアウトです。ご家庭の冷蔵庫・玄関・寝室などに貼って、ご本人の希望を明確に伝えるためのツールとしてお使いください。
子ども向け 在宅看取り準備チェックリスト
家族での話し合いや、必要な準備を整理するのに役立ちます。印刷して共有しながら確認できる実用的な内容になっています。
家族で話し合うための 看取りテーマ共有シート
このシートは、家族が集まる場や、ケアマネジャーとの面談時などに活用できる「気持ちと希望の見える化ツール」です。
書き込みながらゆっくり話し合うことで、気づきや共有が生まれるよう構成しています。
看取り後にやるべき手続き一覧表
死亡直後から数か月以内に必要な手続きを時系列で整理しています。チェック形式なので、印刷して確認しながら使える実用的なリストになっています。
📌 よくある質問(Q&A)
Q1. 在宅で看取るとき、急変したらどうすればいいですか?
A. あらかじめ「訪問診療」や「看取り対応の医師」と契約しておけば、急変時にも連絡をとって対応してもらえる体制が整います。多くの在宅医は24時間体制で対応してくれますので、主治医と“いざという時”の連絡方法を共有しておくことが大切です。
Q2. 延命治療をするかしないか、本人が判断できない場合は?
A. 本人が意思を示せないときは、家族が代わって判断することになります。後悔しないためにも、元気なうちに「事前指示書」や「希望」を話し合っておくことがとても大切です。「延命はしないでほしい」「静かに見送ってほしい」など、ちょっとした会話の記録でも役立ちます。
Q3. 医療費や介護費用はどれくらいかかるの?
A. 医療費は健康保険が適用され、自己負担は1〜3割です。介護は要介護認定を受けていれば介護保険が使えますので、訪問看護や福祉用具のレンタルなども1〜2割負担で利用可能です。月額数千円〜1万円前後で収まるケースも多く、費用の面で「意外と現実的」と感じる人も少なくありません。
Q4. 一人暮らしの高齢者でも在宅看取りはできますか?
A. 条件が合えば可能です。ただし、**見守り体制(近隣の親族・訪問介護・見守りサービスなど)**が必要です。本人の意思と、サポートできる環境をケアマネジャーとよく相談しながら進めることが重要です。
Q5. 亡くなった後の手続きが不安です。何をすればいいの?
A. 主治医が死亡確認・死亡診断書の発行を行い、その後、葬儀の手配・役所への死亡届提出・健康保険証の返却などが必要です。あらかじめリストを用意しておくと安心です。地域の包括支援センターや葬儀社に相談すれば、案内やサポートも受けられます。
Q6. 事前にしておいたほうがいいことはありますか?
A. はい、以下のような準備があると安心です:
- 家族での話し合い(延命や場所の希望など)
- 主治医との連携・訪問診療の依頼
- 「事前指示書」の作成
- 緊急時の連絡体制の整備(医師・葬儀社など)
- 必要な医療・介護用品の事前確認
まとめ
「自宅で最期を迎える」という選択は、本人にとっても家族にとっても、大きな決断です。しかし、医療と介護のサポート体制が整いつつある今、在宅看取りは現実的な選択肢となってきています。
病院での看取りにはない、家庭ならではのぬくもりや安心感。そして、家族がそばで寄り添う時間は、何ものにも代えがたいものです。その一方で、在宅で看取るには事前の準備や家族の協力、制度の活用が不可欠であることも忘れてはなりません。
制度や支援は想像以上に整っています。地域のケアマネジャーや包括支援センター、訪問診療の医師と連携を取りながら、一歩ずつ準備を進めることで、在宅看取りは「できるかもしれない」から「やってよかった」に変わります。
最期の時間をどう過ごすかは、家族の絆を深める機会にもなります。本人の希望を尊重し、納得のいくかたちでその時を迎えられるよう、できることから少しずつ始めてみましょう。
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